遺言書が複数出てきた!?どの遺言書が有効か?

遺品整理で故人の遺言書が複数見つかった場合はどうなる?

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遺品整理をしていたら、複数の遺言書が見つかった…そんなケースも珍しくはありません。紛失したと思って再度書き直したり、気が変わって書き改めたりすることは、あってもおかしくないことです。そもそも一度書いたこと自体を忘れてしまっている人もいるかもしれません。いずれにせよ複数の遺言書を作成すること自体は別に悪いことではありません。これから見ていくように、その効力に問題が生じるだけです。
遺言は、遺言者の最終意思を尊重するという意味合いもあって、生存中はいつでも撤回することができます。そして、その撤回の方法として、新たに遺言書を書き直すということが認められています。遺族が複数の遺言書の対処に戸惑うのはそのためです。
そこで、複数の遺言書が見つかった場合、どの遺言書が優先するのか、その優劣は一体どのように判断するのか、など相続人が気になる点について見ていきましょう。

まず遺言書作成の日付をチェック

複数の遺言が見つかった場合、まずは遺言書作成の日付をチェックします。日付は、遺言能力の有無や複数の遺言書の先後を判定するために重要な役割を果たすので、遺言書には必ず日付を記載しなければなりません。
このように遺言には日付が必要なので、日付のない遺言書は無効となります。したがって、複数ある遺言書のうち、日付のない遺言書は選択肢から外すことができます。また、「2016年7月」のように、年月だけで日付のない遺言書も同じく無効です。ただし、「満80歳の誕生日」や「2016年山の日」のように、年月日が特定できるのであれば、日付は暦日でなくても構いません。その遺言は有効です。
なお、自筆証書遺言の場合には、当然ながら日付は自筆である必要があります。なので、パソコンで作成されている場合には、その遺言は無効です。
いずれの遺言書にも、日付がある場合には、次に検討する遺言書の内容で、どちらが有効かを判断することになります。

遺言の内容をチェック

日付で遺言書の優劣がつかない場合には、遺言の内容をチェックします。
それでは、遺言書の日付が異なる場合、前の遺言書と後の遺言書のどちらの内容が優先するのでしょうか。このような場合、民法は、「前の遺言と後の遺言が抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」(1023条)と規定しています。
たとえば、前の遺言で「甲土地をAに相続させる」としておきながら、後の遺言で「甲土地をBに相続させる」とすれば、2つの遺言の内容に抵触が生じています。したがって、この場合、前の遺言は後の遺言によって撤回したものとみなされ、結果、後の遺言が有効になります。
一方で、前の遺言と後の遺言が抵触しない場合には、いずれの遺言も有効となります。たとえば、前の遺言で「甲土地をAに相続させる」とし、後の遺言で「乙土地をBに相続させる」とした場合が、これにあてはまります。

自筆証書遺言と公正証書遺言での違いは?

自筆証書遺言と公正証書遺言には優劣があるのでしょうか?
まず、自筆証書遺言ですが、その名のとおり、遺言者が全文、日付、氏名をすべて自筆で記載しなければいけません。パソコンで作成すればもちろんアウトですし、代筆を依頼することも許されません。簡単に作成することができて、費用もかからないといった長所がある反面、紛失や偽造のおそれ、また今回のように複数の遺言をめぐって争われる可能性があります。
一方、公正証書遺言は、2人以上の証人の立ち合いのもと、公証人により作成される遺言書のことです。公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるので、紛失や偽造のおそれはありません。また、自筆証書遺言のように検認手続きが不要なので、ただちに遺言の執行が可能になります。ただし、遺言の内容を公証人や証人に秘密にできない、費用がかかる、といった短所があります。
自筆証書遺言と公正証書遺言での優劣はありません。あくまでも、上記の日付や内容によって優劣を判断します。

この記事を書いた人

株式会社日比谷花壇 
フューネラルプロデューサー
金澤 和央(カナザワ カズオ)
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