なぜ日本人は桜に儚さや死を想うのか~桜と日本人について考える~

桜にまつわるストーリーを紐解く

寒い冬が終わり、暖かい春の象徴でもある桜。
日本人にとっては、最もポピュラー花といってもよく、にぎやかなお花見や入学式など明るいイメージを持っている人も多いと思います。
ただ、同時に一斉に咲いたと思えば、すぐに散ってしまう様子は、潔さや儚さあるいは、死といった色々な感情を人々に持たせる花なのかもしれません。

桜は古来から日本人が大切にしていた花であり、様々な伝承や歌に登場しています。ここでは、桜が日本の人々にどのように描かれ、今に伝わっているか、解説していきたいと思います。

古事記にも登場!儚い象徴として描かれた桜。

桜の起源は、日本古来のもの、外来のものなどの議論があるようですが、奈良時代につくられた「古事記」に既に桜は登場しています。
女神として登場する「コノハナサクヤヒメ」は桜の名前の由来にもなっていると言われていますが、古事記では姉の女神「イワナガヒメ」の対称的な存在として描かれます。
イワナガヒメが名前の通り、岩の神であり、美しくはないが、寿命が長く、変わらない象徴で、コノハナサクヤヒメは、桜の精として登場し、美しいが寿命が短く、すぐに消えてしまう象徴となっています。
そういった伝承から、日本人は古来から、美しいと同時に儚い存在、というイメージを桜に持っていたものと考えられています。

桜が咲く季節に死にたいという和歌を残した西行法師

奈良時代から平安時代に編纂された「万葉集」や「古今和歌集」でも桜にちなんだ和歌が数多く詠まれています。
悲しさや寂しさの中にある感動や美しさ「もののあわれ」を代表するものとして桜は描かれます。

平安時代の僧侶であり、歌人である西行法師の有名な桜にまつわる和歌を紹介します。

願はくは 花のしたにて 春死なむ
その如月の 望月の頃

如月の望月の頃とは陰暦では2月15日、現在の3月下旬あたりであり、その頃に咲く花、つまり桜のもとで死にたいものだ、という意味になります。
この陰暦の2月15日とはお釈迦様が亡くなられた日でもありますが、僧侶である西行法師はそれに倣いたいという思いと同時に、美しく儚い桜についても想いを馳せて詠っています。

現在の我々でもこの歌に心を動かされてしまうのは、ずっと変わらないイメージを桜に持ち続けているということなのかもしれませんね。

近代から現代の日本における桜

昭和初期の作家である梶井基次郎の「桜の樹の下には」という短編小説は、主人公が桜の木の下には屍体が埋まっているという妄想をすることで、桜の美しさに不安を覚えてしまう自分を安心させるという心の内面を描いた物語です。この物語はフィクションではありますが、木を敢えて「桜」にすることで、日本人の共感を得ることができたのかもしれません。
この作品と関係あるかはわかりませんが、子どもの頃、桜の木の下に人の死体が埋まっている、という都市伝説を聞いたことがある人は結構いるのではないでしょうか?
美しく明るいというイメージの裏に短命で儚いという二つの顔を持つことで、そういった想像やストーリーが勝手に作られていくのもこの桜という木の面白さですね。

現代においても、「桜」をテーマにした作品は数多く作られています。
「桜ソング」とジャンル分けされるくらい枚挙にいとまがありませんが、福山雅治の「桜坂」、宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」は、失恋の歌、森山直太朗の「さくら」は友の別れや旅立ちをテーマにした歌。曲調も美しいバラードであり、心に刺さる桜の歌は、やはり何か美しさと同時に悲しさ、寂しさを感じるものになっています。
また、松任谷由実の「春よ、来い」は、「桜」という言葉をひとつも使っていませんが、歌詞や曲を聴くと、きっと皆、桜のことを想像してしまうのではないでしょうか。

奈良時代から現代まで人々に同じ思いを抱かせる花。桜にはやはり特別な力が宿っているのだなと思ってしまいます。

最後に

長く続くコロナ禍によって、大勢で集まって桜の下でお花見を楽しむ、ということができなくなってしまいましたが、ゆっくりとお散歩をしながら、桜を静かに見ることも、また心が豊かになる楽しみ方かもしれません。
散っていく桜を眺めながら、はるか昔のことに思いを馳せて、もののあわれを感じてみてはいかがでしょうか。

オハナクラブパートナーのご紹介

オハナクラブでは、桜の木の下で眠りたいという願いをかなえることができる、樹木葬サービスを展開しているパートナーをご紹介できます。
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『森の墓苑』
https://www.ohanaclub.jp/service/5276/
公式HP:https://www.morinoboen.org/

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この記事を書いた人

株式会社日比谷花壇 
フューネラルプロデューサー
金澤 和央(カナザワ カズオ)
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