日本でも普及が進むエンバーミングの概要や費用を解説

エンバーミングについて解説します

エンバーミングとは

エンバーミングは日本語では「遺体衛生保全処置」とも呼ばれ、腐敗の原因となる血液を防腐液に入れ替え、遺体の腐敗を遅らせるための処置です。また、遺体が負った傷を修復し、生前の状態に近づける施術もエンバーミングに含まれます。17世紀ごろに欧州の科学者が防腐液を遺体に注入して腐敗を遅らせる技術を開発しました。その後、アメリカの南北戦争を機に普及が進みます。戦地から運んでいる間に遺体の腐敗が進むのを遅らせ、戦闘で受けた傷を修復してから遺族のもとへ届ける目的でエンバーミングが実施されました。土葬がメインの海外ではエンバーミングが定着しています。

エンバーミングが日本でも知られるようになった理由

1974年に日本でもエンバーミングが導入されますが、火葬がメインなので普及は進みませんでした。日本でエンバーミングの重要性が認識される契機となったのが、1995年に発生した阪神淡路大震災です。理由は3つあり、1つめは犠牲者が多く、火葬が間に合わなくなったことです。交通網も破壊されたため、遺体の搬送にも時間がかかりました。2つめが、ビルや家屋の倒壊によって多くの遺体が損傷したことです。遺族の精神的負担を抑えるために、エンバーミングによって損傷個所が修復されました。

3つめが、身元不明の死体が多かったことです。遺族が確認に訪れるまで腐敗を防ぐ必要がありました。これらが契機となり、日本でもエンバーミングの認知と普及が進みました。

エンバーミングをするメリットは?

エンバーミングには4つの強みがあります。1つめは、遺体を生前の姿に近づけられることです。事故や災害などで負った傷の修復はもちろん、闘病によって瘦せこけた頬を膨らませて、遺体の表情を穏やかに整えられます。2つめが、ドライアイスを使用した場合より、遺体の腐敗が遅くなることです。腐敗の原因となる血液を防腐液に入れ替えるエンバーミングは、ドライアイスで遺体を冷やすより腐敗が遅くなります。事情があってすぐに葬儀を執り行えない場合に、エンバーミングは適しています。また、時間をかけてゆっくりと故人を見送ることができるため、遺族にとって気持ちの整理の一助にもなるでしょう。

3つめは、衛生面の向上です。遺体はウイルスに感染していたり、時間の経過とともに細菌が繁殖したりします。エンバーミングでは、遺体の消毒と洗浄が施されます。葬儀に参列した人が遺体からウイルスや細菌に感染するリスクを下げることができ、衛生面を向上できるでしょう。4つめが、海外からの遺体搬送です。海外旅行中や、海外に転居しているときに亡くなるケースもあるでしょう。葬儀を日本で執り行うなら空輸で遺体を搬送する必要がありますが、多くの国はエンバーミングを空輸による遺体搬送の条件に定めています。

これは搬送途中の遺体の腐敗と、ウイルスや細菌の伝染を防ぐためです。エンバーミングを施せば、海外で亡くなった場合でも日本で葬儀を執り行えます。

エンバーミングの手順と費用

エンバーミングは大きく分けて5つの工程があります。初めに施すのが、遺体の洗浄と殺菌です。遺体に付着したウイルスや細菌が伝染しないように遺体を洗浄し、殺菌します。死後硬直を解きながら、遺体の損傷個所も把握します。遺体の顔や表情を整えるのが、2つめの工程です。遺体の鼻や口を綿で塞ぎ、髪を洗ったり、ひげを剃ったりして、遺族との対面に備えて身だしなみを整えます。3つめの工程が、血液と防腐液の入れ替えです。鎖骨部や大腿部を2~3cm切開し、静脈から防腐液の注入するための管を挿入します。エンバーミングを施す「エンバーマー」が防腐液を循環させるために遺体をマッサージし、防腐液と血液を入れ替えます。

血液と防腐液の入れ替えが終わったら、切開部分を縫合する4つめの工程です。管を挿入するために切り開いた個所を縫い、損傷部分があれば修復も施します。防腐液の注入や損傷を修復した際に付いた汚れを洗浄し、遺体に服を着させれば完了です。

日本のエンバーミングの基本費用は、15~25万円です。これは「IFSA(日本遺体衛生保全協会)」によって決められています。遺体の修復個所が増えると別途費用がかかります。多くの場合は、葬儀会社を通してエンバーミングを依頼します。葬儀の打ち合わせの際に葬儀会社にエンバーミングの費用も確認するといいでしょう。また、IFSAは、エンバーミングに関して4つの規定を設けています。1つめは、本人か家族の同意です。許可なく遺体を切開したり、修復したりすることは死体損壊罪にあたります。本人や遺族の了承を得て、死者に対して礼節を持って接する場合に限りエンバーミングが許されているので同意書への署名が必要です。

IFSAの認定を受けた技術者による施術が、2つめの規定です。IFSAの認定を受け、登録されているエンバーマーでなければ、エンバーミングは施せません。また、3つめの基準として、遺体の切開は最小限に抑えることが定められています。4つめが、遺体の保存期間です。エンバーミングが施された遺体は、50日以内に火葬か埋葬をしなければいけません。

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